版画は、いまグローバルなアートの世界でどのように位置づけられるのだろうか。
版画にはどんな未来が開けるのかを問うため、企画した展覧会 「版画の希望 展」
(2016年4月22日(金)~5月1日(日))に出展された
気鋭の木版画作家 遠藤美香さんの作品をご紹介いたします。
(ワイアートギャラリーで作品を販売致しております。詳細はお問い合わせ下さい)
木版創作を続ける遠藤美香さんの作品が「FACE展2016」損保ジャパン日本興亜美術展でグランプリを受賞しました。この賞は公募で4回目にして応募857点から木版画が初めてのグランプリとなりました。真に力の有る、国際的に通用する作品として木版が注視されたことは版画の未来に希望が見えてきます。
遠藤さんは、受賞インタビューで、「この受賞作品は、巨大なベニヤ板(ホームセンターで買える一番大きなサイズのベニヤ板・縦182×横91センチ)で彫っています。制作中は板の上に乗って、下絵を描いた表面をひたすら彫刻刀で彫っていきました。墨をひいて紙に刷る工程だけでも、だいたい20分から30分程度。作品全体では、約半年の時間を費やしました。人物を描くときにも、その人が醸す雰囲気や意味は関係なくて「画面のバランスとして、この場所にはこれ(人物)があるといい」という感覚で配置を決めています。作品を観た人の印象や感想こそが作品そのものだと考えています。私の思い入れや感情が見る方を阻害しないよう、あるいは自由に作品を感じ取れるよう、画面に自分の嗜好性を持ち込まないように徹している」と語っています。
遠藤美香さんのモノクロ木版画の魅力
遠藤さんの作品は見事な構成力と表現力に負うところが多いのですが、モノクロの表現には独特な味が在ります。作品は、厚くて柔らかい土佐の楮和紙に、深く浮き彫りにされた版で摺られています。作品の前方から平行に差す明りで、摺られた山と谷の部分、そして摺られていない所が明確になり、この作品は何を表現したいのかがはっきりと見て取れます。
私たちは日常、平らな板の上にインクを塗って、そこだけの薄い膜で形を作っていく平板印刷された物を見慣れています。遠藤木版画は、研ぎ澄ました彫刻刀で一本一本の線を固い版木に彫り込んで、それも線の両側を彫り、バレンで紙を線の上にしっかりと押し付けて摺っています。
江戸時代の木版画の驚異的な表現技法は選りすぐりの腕を持った職人達のチームワークの結果なのですが、和紙職人、絵師、彫師、バレンを作る人、摺師、刃物師、版木職人なとが版元の確かな眼力のもとで作品づくりをしていました。遠藤さんは、絵、彫、摺を一人でこなしているのです。
もうひとつモノクロ木版画の魅力を発見する為には鑑賞するときの照明の問題があります。頭上からのまぶしい照明でなく、作品を手に持って、紙と平行に差し込む柔らかな明りで見ればさらに深く木版画がめざす宇宙が広がり、遠藤木版の虜になります。
遠藤美香 Mika Endo
1984年 静岡県生まれ
2007年 日本大学芸術学部美術学科版画専攻卒業
2009年 愛知県立芸術大学大学院美術研究科油画・版画領域修了
受賞
2007年
第4回棟方記念版画大賞 棟方記念大賞
2008年
第76回版画協会展 山口源新人賞
2009年
第77回版画協会展 新人賞
2009年
第1回青木繁記念大賞西日本美術展 石橋財団石橋美術館賞
2011年
第79回版画協会展 最優秀準会員賞
2011年
シェル美術賞2011 本江邦夫審査員奨励賞
2013年
第81回版画協会展 最優秀準会員賞
2014年
第20回鹿沼市立川上澄生美術館木版画大賞展 大賞
2015年
FACE展2016 損保ジャパン日本興亜美術賞展 グランプリ
展覧会
2009年
「アートアワードトキョー丸の内2009 行幸地下ギャラリー
2011年
「生みだすチカラ 日藝美術学科出身者による版画展」星と森の詩美術館(新潟 十日町)
2011年
「今、そして―県版画招待作家21世紀展」
駿府博物館
2012年
「公募団体ベストセレクション 美術 2012展」東京都美術館
2012年
「第3回バンコクトリエンナーレ国際版画・ドローイング展」
シルパコーン芸術大学 (タイ・バンコク)
2013年
「新世代への視点2013」ギャラリーなつか
2014年
第2回国際木版画会議 特別企画展 「木版ぞめきー日本でなにが起こったかー」東京藝術大学大学美術館
2016年 版画の希望展 ワイアートギャラリー